個人事業で家族を従業員として雇う場合の注意点

個人で事業を始めるとき、配偶者や親族を従業員として迎えるケースは少なくありません。身内なら融通が利きますし、生計が同じ家族内で給与を循環させれば、世帯全体の手取りを増やせる可能性もあるからです。

ただ、家族を雇う場合、他人を雇うのとは違い、法律や税金のルールが少し特殊になります。「給与を払えば当然経費になる」とは限らなかったり、社会保険の手続きが複雑だったりと、意外な落とし穴も。ここでは、事前に知っておきたい税務や労務のポイントを、わかりやすく解説します。

青色申告と白色申告で変わる「経費」のルール

家族への給与を経費にするには、確定申告の種類によって戦略が変わります。原則として、一緒に暮らす親族への給与は経費になりませんが、特例として認められる制度があります。

青色申告の場合

事前に税務署へ届け出ることで、支払った給与の全額を経費にできます。ただし、金額は「仕事内容に見合った適正な額」であることが前提です。あまりに高額すぎると、税務調査で認められないリスクがあるため注意しましょう。

また、適用を受けるにはその年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があり、期限管理がとても大切です。

白色申告の場合

こちらは、実際に払った金額を経費にする仕組みではなく、決まった計算式による「控除」という形をとります。配偶者なら最大86万円、その他の親族は50万円という上限があり、事業所得が低い場合はさらに控除額が減ることもあります。

社会保険加入のラインは従業員数「5人」

次に気になるのが社会保険（健康保険・厚生年金）です。個人事業主の場合、加入義務は「従業員の人数」と「業種」で決まります。

一般的に、従業員が常時5人未満であれば強制加入の対象外となり、それぞれで国民健康保険と国民年金に加入します。

しかし、従業員が5人以上になると、多くの業種で社会保険への加入が義務付けられます。以前は弁護士や税理士などの士業は対象外でしたが、2022年の法改正により、士業でも5人以上雇う場合は強制適用の対象となりました。事業拡大で5人目のスタッフを迎える際は、会社負担分の保険料コストも予算に組み込んでおきましょう。

なお、5人未満でも「任意適用」として加入する道はありますが、少し注意が必要です。個人事業主本人は加入できず、「従業員である家族だけ」が加入する形になります。事業主は国民健康保険のまま全額自己負担となり、さらには従業員の保険料も半分負担することになるため、コストとメリットのバランスを慎重に見極めましょう。

源泉徴収の事務手続きも忘れずに

家族への給与であっても、税法上は一般の従業員と同じく所得税の源泉徴収（天引き）が必要です。原則、天引きした税金は翌月10日までに国に納めますが、小規模な事業所には特例があります。

給与を支払うスタッフが常時10人未満の場合、申請書を提出すれば納税を年2回（7月と1月）にまとめられます。毎月の手間が省けるので、事務負担を軽くするのに役立ちます。ただし、納付を先送りしているだけですので、半年に一度の納付時期に資金不足にならないよう、預かった税金は計画的に管理しておきましょう。